ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠陥多動障害)は、かつて子どもに特有の発達障害と考えられていました。しかしその後の研究により、大人になっても症状が持続することが少なくないとわかってきました。現在では社会的な認知も広がり、働き盛りの年代でも「もしかしてADHDではないか」と考えて医療機関を受診される方が増加しています。
ADHDは主に以下の4つの領域で症状が現れる神経発達症(発達障害)です。
集中力を長く保つことが難しく、取り組んでいる作業にすぐ気を取られてしまったり、小さなミスを繰り返したりします。忘れ物が多い、物をよく失くす、人の話を聞いていないように見えるといった行動も典型的です。また、興味のあることには強い集中を示しますが、関心の薄い課題は続けられない傾向があります。
子どもの場合には、落ち着きがなく動き回る、じっとしていられないといった姿が目立ちます。成人になると、手や指を動かし続ける、順番を待つのが苦手、人の会話を遮ってしまう、常にせわしなく行動するなどの形で表れることが多くなります。
物事を計画的に進めることが苦手で、やるべきことを後回しにしたり、期限に間に合わなかったりします。部屋を片づけられない、複数の作業を並行してこなせない、優先順位をつけられないといった生活上の困難もよくみられます。さらに、アルコール・ギャンブル・ゲームなどへの依存傾向を伴うこともあります。
感情のコントロールが難しく、些細なことで強く怒ってしまうことがあります。ただし、怒りの感情は長く続かず、比較的早く気持ちが切り替わるのも特徴です。子ども時代には「乱暴」と受け取られてしまうことも少なくありません。
成人期のADHDでは、職場や家庭生活における困難が生じることが多いとされています。例えば、時間管理や報告・連絡・相談が苦手で業務が滞る、人間関係のトラブルが生じやすい、片づけができず生活環境が乱れやすいといった形です。これらはしばしば「性格の問題」や「努力不足」と誤解されますが、実際にはADHDに起因する症状であることが少なくありません。また、突然の強い眠気を訴える方もおり、会議中や運転中に問題となることがあります。
ADHDの症状には脳内の神経伝達物質、とくに前頭前野におけるドーパミン機能の低下が関与していると考えられています。また、遺伝的な影響も関わっているとされ、推定遺伝率は約60%を超えると報告されています。
成人期のADHDでは、うつ病や不安障害、強迫症、物質依存、ギャンブルなどの行動嗜癖、さらにはパーソナリティ障害が合併することもあります。そのため職場での適応障害や抑うつ状態として表面化し、本人も周囲も気づかないまま生活の質を下げてしまうことがあります。
治療には、生活環境の調整やカウンセリング、認知行動療法といった精神社会的アプローチが行われます。加えて、薬物療法も重要な位置を占めています。薬は脳内の神経伝達物質(主にドーパミンやノルアドレナリン)の働きを整えることで、集中力や衝動性の改善に役立ちます。効果が安定するまでに数週間かかることもあります。
中枢神経刺激薬に分類される薬です。従来のメチルフェニデート錠に比べると長時間にわたって効果が持続する特徴があります。1日1回の服用で済むため、日常生活のリズムを整えやすい点が利点です。メチルフェニデート錠と比べて依存のリスクは低いとされていますが、必ず専門の医師が管理する体制のもとで処方されます。当院には院長を含め複数名のコンサータ登録医が在籍しており、メチルフェニデート徐放錠(コンサータ)の処方が可能です。
ノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害する作用を持つ非刺激性の薬です。依存のリスクが比較的低いことや後発医薬品があり薬価が比較的安く抑えられることから幅広く使用されています。不安感を軽減するという研究報告もあり、不安を抱えやすい方にも取り入れやすい治療薬です。
脳内のα2Aアドレナリン受容体に選択的に結合し、神経伝達を調整することで、ADHD症状を改善します。非刺激性の薬剤で、衝動性や多動性を抑える効果が期待できます。副作用として眠気を生じることがありますが、夜に服用することで日中の落ち着きを得やすくなります。