双極性障害(そうきょくせいしょうがい)とは、気分が高揚して活動的になる「躁状態(または軽躁状態)」と、気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す、脳の働きに関わる疾患です。かつては「躁うつ病(躁鬱病)」と呼ばれ、WHOの国際疾病分類(ICD)では「双極性感情障害」、近年の診断基準(DSM-5-TR)では「双極症」と表記されるようになりました。名称は複数ありますが、「躁うつ病」「双極性感情障害」「双極症」は、いずれも同じ疾患を指します。
頻度は全人口の1%前後と報告されており、決してまれな疾患ではありません。発症は20歳前後の若い時期が多いとされますが、30代以降に気づかれるケースもあります。
双極性障害の多くはうつ状態から始まるため、初期の段階ではうつ病と区別がつきにくいという特徴があります。また、躁状態・軽躁状態の時は本人が「調子が良い」と感じるため、病気として自覚されにくく、受診や診断が遅れやすい疾患でもあります。気分の波を放置すると、仕事や人間関係、経済面に大きな影響が及ぶことがあるため、早期に治療へつなげることが大切です。
双極性障害の症状は、「躁状態」「軽躁状態」「うつ状態」の3つの気分の波として現れます。どの状態がどのくらい続くかには個人差がありますが、経過全体ではうつ状態の期間の方が長いことが一般的です。
■ 躁状態
気分が異常に高揚し、開放的または怒りっぽくなる状態です。眠らなくても疲れを感じない(睡眠欲求の減少)、非常に活動的になる、話が止まらなくなる、アイデアが次々に浮かぶ、自分の能力を過大に評価する、といった症状がみられます。高額な買い物や無計画な契約など、結果を顧みない行動が増え、社会的な信用や人間関係を損なってしまうことも少なくありません。本人は「絶好調」と感じているため病気の自覚が乏しく、周囲が先に異変に気づくケースが多くみられます。
■ 軽躁状態
躁状態よりも程度が軽く、期間も短いものを軽躁状態と呼びます。いつもより元気で活動的になる、睡眠時間が短くても平気、仕事がはかどる、といった状態で、社会生活が破綻するほどではないため、本人も周囲も「調子が良い」としか感じないことがほとんどです。この見過ごされやすさが、後述する2型の診断を難しくしています。
■ うつ状態
気分が強く落ち込み、興味や喜びを感じられなくなる状態です。無気力、集中力の低下、疲れやすさ、不眠または過眠、食欲の変化などが現れ、日常生活や仕事に支障が出ます。双極性障害のうつ状態では、眠りすぎる・食べすぎるといった形で現れることも多いとされています。強い自責感や、死にたいという考えが生じることもあり、周囲の理解と早めの対応が非常に重要です。
なお、気分の落ち込みと焦りや興奮が同時に現れる「混合状態」がみられることもあります。
双極性障害は、躁状態の程度によって大きく2つのタイプに分けられます。
■ 双極性障害1型
はっきりとした躁状態とうつ状態を繰り返すタイプです。躁状態が激しく、社会生活に深刻な影響が及ぶ場合や、ご本人の安全を守るために入院による治療が必要になる場合もあります。
■ 双極性障害2型
軽躁状態とうつ状態を繰り返すタイプです。軽躁状態は「調子が良い時期」としか見えないため、うつ状態だけが問題として認識され、うつ病として治療されているケースが少なくありません。実際に、うつ病と診断された方の1〜2割程度が、経過の中で双極性障害へ診断が変わるとする報告もあります。2型は1型より軽いという意味ではなく、うつ状態が長く続きやすいため、生活への影響が小さいわけではありません。なお、2型は女性にやや多いとする報告があります。
また、1年間に4回以上気分の波を繰り返すものは「急速交代型(ラピッドサイクラー)」と呼ばれ、気分の周期が短い分、治療の上でより丁寧な調整が必要になります。このほか、軽い気分の高まりと軽い落ち込みを2年以上にわたって繰り返す「気分循環症」と呼ばれるタイプもあります。
双極性障害のはっきりとした原因は、まだ完全には解明されていません。現在は、脳内の神経伝達物質(セロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミンなど)による情報伝達の調節がうまく働かなくなることが、症状に関与していると考えられています。
また、双生児研究などから遺伝的要因の関与が知られており、うつ病よりも体質的な側面が大きい疾患とされています。ただし、遺伝だけで発症が決まるわけではなく、環境要因が重なって発症すると考えられています。
過労や睡眠不足、生活リズムの乱れ、環境の変化などのストレスは、発症や再発のきっかけ(誘因)になることが知られていますが、ストレスそのものが直接の原因ではなく、性格の弱さや気の持ちようの問題でもありません。徹夜や昼夜逆転といった睡眠リズムの乱れは気分の波を不安定にしやすいため、治療の上でも生活リズムの安定が重視されます。
以下は、双極性障害にみられやすいサインをまとめたセルフチェックリストです。「気分が高まる時期」と「落ち込む時期」の両方について、思い当たるものがないか振り返ってみてください。
なお、このセルフチェックは診断を行うものではなく、受診を検討する際の目安です。当てはまる項目が多い場合でも、ほかの疾患や一時的なストレス・疲労が原因となっていることもあります。特に、落ち込みだけでなく「気分が高まる時期」にも心当たりがある場合は、うつ病ではなく双極性障害の可能性も考えられるため、正確な評価のために精神科・心療内科でご相談ください。
双極性障害の診断は、医師による問診を中心に、症状の内容とこれまでの経過を確認しながら総合的に行われます。血液検査や画像検査で確定できる疾患ではないため、気分の波の経過を丁寧にたどることが診断の中心になります。
診断の際には、米国精神医学会の診断基準(DSM-5-TR)などを参考に、これまでに躁状態・軽躁状態の時期があったかどうかを確認します。目安として、躁状態は1週間以上、軽躁状態は4日間以上、うつ状態は2週間以上続くことが基準の一つとされています。初診では、問診票のご記入の後、現在の症状やこれまでの気分の波、睡眠や生活の状況などを診察の中でお伺いします。気分の変化を記録したメモや日記があれば、経過を把握する上で参考になります。
診断の上で最も重要なのが、うつ病との見分けです。双極性障害はうつ状態の時に受診されることがほとんどで、躁状態・軽躁状態の時期を本人が「調子が良かっただけ」と捉えているため、診察で語られないことが多くあります。その結果、初診時にはうつ病と診断され、後から双極性障害と分かるケースが少なくありません。うつ病と双極性障害では治療に使う薬が異なるため、この見分けは治療方針を左右します。受診の際には、これまでに気分が高ぶって活動的になった時期がなかったかを、思い当たる範囲でお伝えください。ご家族など身近な方から見た様子も、診断の重要な手がかりになります。
問診の補助として、質問紙による心理検査を用いることがあります。また、甲状腺機能の異常など、気分の波を引き起こす身体の病気を除外するために血液検査を行う場合もあります。
双極性障害の治療は、気分の波をゼロにすることよりも、波をコントロールしながら安定した生活を続けられるようにすることを目標に行われます。治療の柱は「薬物療法」と「生活リズムの調整を含む心理社会的支援」です。
■ 薬物療法
治療の基本となるのは、気分の波を抑える「気分安定薬」(炭酸リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなど)です。症状の時期や状態に応じて、保険適用のある一部の非定型抗精神病薬を用いることもあります。炭酸リチウムは効果と安全性の管理のために定期的な血液検査(血中濃度の測定)が必要で、薬によって眠気・ふらつき・手の震えなどの副作用が生じることもあります。効果や副作用の現れ方には個人差があるため、診察の上で調整していきます。なお、抗うつ薬を単独で使うと、躁状態への切り替わり(躁転)や気分の波の不安定化を招くことがあるため、使用する場合は慎重に検討します。
■ 心理社会的支援・生活リズムの調整
病気の性質や再発のサインを知ること(心理教育)、十分な睡眠と規則正しい生活リズムを保つこと、ストレスとの付き合い方を身につけることは、再発予防の大切な土台です。睡眠時間が短くなってきた、買い物が増えてきたなど、ご自身の再発サインをあらかじめ知り、身近な方と共有しておくことも役立ちます。また、うつ状態で就労が難しい時は、休職して療養に専念することが回復への近道になる場合もあります。症状が落ち着いた後も、自己判断で薬を中断すると再発につながりやすいため、治療の継続については必ず医師にご相談ください。
Q.双極性障害とうつ病はどう違いますか?
A.うつ状態だけが現れるのがうつ病、うつ状態に加えて躁状態・軽躁状態が現れるのが双極性障害です。うつ状態の症状だけでは両者の区別は難しく、治療に使う薬も異なるため、気分が高ぶった時期の有無を含めた医師の評価が必要です。
Q.双極性障害は治りますか?
A.気分の波を繰り返しやすい疾患のため、「完治」よりも、治療によって波をコントロールし、再発を防ぎながら安定した生活を送ることが治療の目標になります。適切な治療を続けながら、仕事や家庭生活を続けている方は多くいらっしゃいます。
Q.薬はずっと飲み続ける必要がありますか?
A.双極性障害は再発を繰り返しやすい疾患のため、症状が落ち着いた後も、再発予防のために服薬を続けることが一般的です。薬の減量や調整は、経過を見ながら医師と相談の上で行います。自己判断での中断は再発の大きな要因になるため、必ず医師にご相談ください。
Q.双極性障害かもしれない場合、何科を受診すればよいですか?
A.精神科・心療内科が相談先となります。渋谷こころのクリニックでも双極性障害(双極症)の診断・治療に対応しております。「うつ病の治療中だが、調子が良すぎる時期もある」「気分の波が激しい」といった段階のご相談でも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。