不安や心配は、危険から身を守るために誰にでも備わっている自然な反応です。しかし、その不安が実際の状況に比べて過剰に強くなったり、長く続いたりして、仕事や学校、人付き合いなどの日常生活に支障をきたしている場合は、不安障害(不安症)の可能性があります。
不安障害とは、過剰な不安や恐怖を主な症状とする疾患の総称です。国際的な診断基準(DSM-5-TR)では「不安症」と呼ばれ、かつては「不安神経症」という名称が使われていた時代もあります。不安症には、全般性不安障害(全般不安症)、社交不安障害(社交不安症)、パニック症、広場恐怖症、限局性恐怖症などが含まれます。
不安症は決してまれな疾患ではなく、日本では生涯のうちにおよそ8%前後の人が何らかの不安症を経験するとされ、女性にやや多い傾向があります。「メンタルが弱いから」「気の持ちよう」と考えられがちですが、不安症の症状は気持ちの問題ではなく、危険を察知する脳の扁桃体という部分の過剰な反応が関わっていることが分かってきています。適切な治療によって症状の軽減が期待できる疾患です。
不安症は10代から20代など比較的若い時期に始まることが多い一方、就職や異動、出産といった環境の変化をきっかけに、大人になってから現れることもあります。
不安障害の症状は、心の症状と体の症状の両面に現れます。
■ 心の症状
はっきりした理由がないまま強い不安や心配が続く、次々と心配事が浮かんで止まらない、悪い方にばかり考えてしまう、緊張が抜けない、そわそわして落ち着かない、イライラする、集中できない、といった症状がみられます。また、「また不安になったらどうしよう」という不安(予期不安)が生じ、不安を感じる場面そのものを避けるようになることも特徴です。
■ 体の症状
動悸、息苦しさ、めまい、発汗、手足の震え、喉のつまり感、吐き気や腹部の不快感、頭痛、肩こりなどの筋肉の緊張、不眠、疲れやすさなど、自律神経の乱れによる多彩な症状が現れます。体の症状が強い場合、内科や循環器科を受診しても検査では異常が見つからず、後から不安症と分かるケースも少なくありません。
■ 回避による生活への影響
不安障害では、不安な場面を避ける「回避」によって、生活の範囲が少しずつ狭くなっていくことが大きな問題になります。電車に乗れない、会議で発言できない、外出を控えるといった回避が続くと、仕事や人間関係に支障が広がり、自信の低下やうつ状態につながることもあります。
不安障害(不安症)には、不安の対象や現れ方によっていくつかのタイプがあり、複数のタイプを併せもつ方もいます。
■ 全般性不安障害(全般不安症)
特定の対象に限らず、仕事・健康・家族・お金のことなど、あらゆることに対して過剰な不安や心配が慢性的に続くタイプです(目安として6ヶ月以上)。たとえば、家族が事故に遭うのではないか、仕事で大きな失敗をするのではないかといった心配が、根拠が乏しいまま次々と頭に浮かび続けます。心配を自分ではコントロールできず、そわそわ感、疲れやすさ、筋肉の緊張、不眠などを伴います。「昔から心配性な性格だから」と思い込み、疾患だと気づかないまま長年過ごしている方が少なくありません。
■ 社交不安障害(社会不安障害・社交不安症)
人前で話す、注目される、評価されるといった場面に強い不安や恐怖を感じるタイプです。人前に出ると動悸・発汗・震え・赤面などの症状が現れ、「失敗したらどうしよう」「変に思われているのではないか」という考えが頭を占めます。いわゆる「あがり症」や「極度の人見知り」として片づけられがちですが、回避によって仕事や学業に支障が出ている場合は治療の対象になります。人前で字を書くと手が震える、会食の場が苦手といった形で現れることもあります。
■ パニック症(パニック障害)
突然、激しい動悸や息苦しさ、めまいなどの発作(パニック発作)が現れ、それを繰り返すタイプです。「また発作が起きるのではないか」という予期不安から、電車や人混みを避けるようになることもあります。パニック障害の症状や治療については、専用ページで詳しく説明しています。
■ 広場恐怖症
体調が悪くなった時に「すぐに逃げられない」「助けを求められない」と感じる場所、たとえば電車・エレベーター・人混み・行列などに強い不安を感じ、避けるようになるタイプです。パニック症に伴ってみられることも多くあります。
■ 限局性恐怖症
高所、閉所、注射、特定の動物など、特定の対象や状況に対して強い恐怖を感じ、避けるようになるタイプです。恐怖の程度が実際の危険に比べて明らかに大きく、生活に支障が出ている場合に診断されます。
■ 分離不安症
家族など愛着のある人と離れることに過剰な不安を感じるタイプです。子どもに多いと思われがちですが大人にもみられ、一人でいることがつらい、相手の安否が常に心配になるといった形で現れます。
不安障害の原因は一つではなく、複数の要因が重なって発症すると考えられています。脳の中で危険を察知する役割を担う扁桃体が過敏に働き、実際には危険が少ない場面でも「警報」が鳴り続けてしまうこと、そしてセロトニンなどの神経伝達物質の働きの偏りが、症状に関わっているとされています。
また、遺伝的な要因や、もともとの気質(心配性・完璧主義・敏感さなど)に、過労や睡眠不足、環境の変化、強いストレス体験などが重なることが、発症のきっかけになると考えられています。ただし、性格の弱さが原因ではなく、意志の力だけで抑え込めるものでもありません。なお、カフェインの取りすぎやアルコール、睡眠不足は不安症状を強めることがあるため、治療の上でも生活習慣の見直しが役立ちます。
以下は、不安障害にみられやすいサインをまとめたセルフチェックリストです。最近の状態を振り返りながら、当てはまるものがないか確認してみてください。
なお、このセルフチェックは診断を行うものではなく、受診を検討する際の目安です。当てはまる項目が多い場合でも、ほかの疾患や一時的なストレスが原因となっていることもあります。不安な状態が長く続き、生活に支障が出ている場合は、精神科・心療内科への受診をご検討ください。
不安障害の診断は、医師による問診を中心に、不安の内容・強さ・続いている期間・生活への影響を確認しながら総合的に行われます。診断の際には、米国精神医学会の診断基準(DSM-5-TR)などが参考にされ、どの場面でどのような不安が生じるかによって、全般性不安障害・社交不安障害・パニック症などのタイプを見極めていきます。
初診では、問診票のご記入の後、困っている症状、いつ頃から続いているか、不安を感じる場面、避けている状況などを診察の中でお伺いします。不安を感じる場面や避けている状況を事前にメモしてお持ちいただくと、診察の参考になります。問診の補助として、質問紙による心理検査を用いることがあります。
また、動悸やめまいなどの症状は、甲状腺機能亢進症や不整脈、貧血といった体の病気でも生じるため、これらを除外するために血液検査などを行う場合があります。体の検査では異常がないのに、動悸や息苦しさ、強い緊張が続いている場合は、不安症の可能性も考えて精神科・心療内科にご相談ください。不安症はうつ病を併発することも多いため、気分の落ち込みについてもあわせて確認します。
不安障害の治療は、「薬物療法」と「認知行動療法などの精神療法」を組み合わせて行うのが標準的です。不安をゼロにすることではなく、不安とうまく付き合いながら、回避で狭くなった生活を取り戻していくことを目標にします。
■ 薬物療法
第一に選択されることが多いのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬です。「抗うつ薬」という名前ですが、不安症の治療薬として広く用いられており、扁桃体の過剰な反応を穏やかにしていきます。効果が現れるまでに2〜4週間程度かかることが多く、飲み始めに吐き気などの副作用が出ることがあります。即効性のある抗不安薬を補助的に用いることもありますが、長期間・多量の使用では依存が問題になるため、必要最小限にとどめます。効果や副作用の現れ方には個人差があるため、診察の上で調整していきます。
■ 認知行動療法・暴露療法
不安を大きくしている考え方の癖を整理する認知行動療法や、安全を確保しながら不安な場面に少しずつ慣れていく暴露療法が有効とされています。回避を続けると不安はかえって維持されるため、薬物療法で症状を和らげながら、段階的に行動の範囲を広げていくことが回復への近道になります。あわせて、カフェインを控える、睡眠のリズムを整える、軽い運動を取り入れるといった生活面の工夫も、不安の軽減を後押しします。緊張した時にゆっくり息を吐く呼吸法を身につけておくことも、不安な場面での助けになります。
症状が落ち着いた後も、自己判断で治療を中断すると再発につながることがあるため、薬の減量や終了は経過を見ながら医師と相談の上で進めていきます。
Q.不安障害は治りますか?
A.適切な治療により、多くの方で症状の軽減が期待できます。回避していた場面に少しずつ取り組めるようになり、生活の範囲が戻っていくことが回復の目安になります。回復のペースには個人差があるため、焦らず治療を続けることが大切です。
Q.ただの心配性やあがり症と、不安障害はどう違いますか?
A.目安になるのは、不安の強さが状況に見合っているか、そして生活に支障が出ているかです。心配や緊張のために眠れない、仕事や人付き合いを避けるようになっている、つらい状態が長く続いている、といった場合は、性格ではなく治療で改善が期待できる状態かもしれません。一度ご相談ください。
Q.抗不安薬やSSRIは、やめられなくなりませんか?
A.SSRIは依存性のある薬ではなく、症状が安定した後、経過を見ながら医師と相談の上で減量・終了を検討していきます。即効性のある抗不安薬は、長期間・多量の使用で依存が生じることがあるため、必要最小限の使用にとどめ、SSRIや精神療法と組み合わせながら調整します。自己判断での急な中断は症状のぶり返しにつながることがあるため、必ずご相談ください。
Q.家族が不安障害かもしれない時、どのように接すればよいですか?
A.「気にしすぎ」「考えすぎ」と否定したり、不安な場面に無理に立ち向かわせたりすることは、かえって症状を悪化させることがあります。ご本人のつらさをそのまま受け止め、責めないことが支えになります。受診をためらっている場合は、ご家族が付き添ってご相談いただいても構いません。
Q.不安障害かもしれない場合、何科を受診すればよいですか?
A.精神科・心療内科が相談先となります。渋谷こころのクリニックでも不安障害(不安症)の診断・治療に対応しております。「病気かどうか分からない」「性格の問題だと思っていた」という段階のご相談でも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。