ADHD(Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder)とは、「不注意(集中が続かない・忘れっぽい)」「多動性(落ち着きがない)」「衝動性(考える前に行動してしまう)」を主な特徴とする、発達障害(神経発達症)のひとつです。日本語では「注意欠如多動症」といい、以前は「注意欠陥・多動性障害」という名称も使われていました。
かつて「ADD(注意欠陥障害)」と呼ばれていた多動性の目立たないタイプも、現在はADHDに含めて診断されます。発達障害にはほかに、ASD(自閉スペクトラム症)やSLD(限局性学習症)などがあり、複数の特性を併せもつ方も少なくありません。
ADHDは生まれつきの脳機能の特性によって生じるものであり、本人の性格や努力不足、親の育て方が原因ではありません。脳内の神経伝達物質、特に前頭前野におけるドーパミンなどの働きの偏りが症状に関与していると考えられています。また、双生児研究などから遺伝的要因の関与も大きいとされ、遺伝率はおよそ70〜80%と報告されています。
有病率は学齢期の子どもの約3〜7%、成人の約2〜2.5%と報告されており、決してまれな疾患ではありません。子どもの頃は周囲のサポートや環境に支えられて特性が目立たなかった方が、就職や結婚などで求められる役割が増えたことをきっかけに困りごとが表面化し、大人になって初めて受診に至るケースも多くみられます。
ADHDの症状は、大きく「不注意」「多動性」「衝動性」の3つに分けられます。すべての症状が同じように現れるわけではなく、不注意が目立つタイプ(不注意優勢)、多動性・衝動性が目立つタイプ(多動・衝動性優勢)、両方が混在するタイプ(混合)があり、症状の現れ方や程度には個人差があります。
■ 不注意
集中を保つことや、注意を適切に向け続けることが苦手な症状です。細かいミスを繰り返す、忘れ物やなくし物が多い、話しかけられても聞いていないように見える、外からの刺激で気が散りやすい、といった形で現れます。また、物事を計画的に進めることが苦手で、やるべきことを後回しにして期限に間に合わない、部屋を片づけられない、複数の作業を並行してこなせない、優先順位をつけられないといった生活上の困難もよくみられます。
■ 多動性
落ち着きがなく、じっとしていることが苦手な症状です。子どもの場合には、授業中に席を離れて動き回る、じっとしていられないといった姿が目立ちます。成人になると外から見える多動は少なくなり、手や指を動かし続ける、貧乏ゆすりが多い、常にせわしなく行動する、頭の中で考えがせわしなく駆けめぐって休まらない、といった形で表れることが多くなります。
■ 衝動性
思いついたことをすぐ行動や発言に移してしまう症状です。順番を待つのが苦手、人の会話をさえぎって話してしまう、衝動買いがやめられない、後先を考えずに大きな決断をしてしまう、などの形で現れます。感情のコントロールの難しさを伴うことも多く、些細なことで強く怒ってしまう一方で、怒りの感情は長く続かず、比較的早く気持ちが切り替わることも特徴のひとつです。
多動性は成長とともに目立たなくなることが多いため、大人のADHDでは不注意の症状が中心になるケースが少なくありません。そのぶん特性が周囲から見えにくく、「性格の問題」「努力不足」「だらしない」と誤解されやすいことが、大人のADHDの大きな特徴です。
仕事の場面では、次のようなサインが現れやすいとされています。
家庭生活でも、片づけができず生活環境が乱れやすい、家事や支払い・提出物などを忘れてしまう、金銭管理が苦手といった困りごとが起こりがちです。また、アルコール・ギャンブル・ゲームなどへの依存傾向を伴うことや、日中に突然の強い眠気を感じて会議中や運転中に支障が出る方もいらっしゃいます。
こうした失敗体験や叱責が積み重なると、自信を失い、うつ状態や不安症状といった二次的な不調(二次障害)につながることもあります。一方で、ADHDのある方には、発想力の豊かさや行動力、興味のある分野への高い集中力といった強みがみられることも少なくありません。「自分の努力が足りないせいだ」とひとりで抱え込まず、困りごとが続く場合は早めに精神科・心療内科へご相談ください。
以下は、大人のADHDにみられやすい特徴をまとめたセルフチェックリストです。最近の生活を振り返りながら、ご自身に当てはまるものがないか確認してみてください。
なお、このセルフチェックはADHDの診断を行うもの(診断テスト)ではなく、受診を検討する際の目安です。当てはまる項目が多い場合でも、ほかの疾患や一時的なストレス・疲労が原因となっていることもあります。
正確な評価には医師の診察が必要ですので、複数の項目に当てはまる状態が半年以上続き、仕事や家庭生活に支障が出ている場合は、精神科・心療内科への受診をご検討ください。
ADHDの診断は、1回の検査だけで判定できるものではなく、医師による問診を中心に、複数の情報を組み合わせて総合的に行われます。初診では、問診票のご記入のあと、現在の困りごとや経過、これまでの生活歴・生育歴などを診察の中でお伺いし、検査の要否についてご説明します。
診断の際には、米国精神医学会の診断基準(DSM-5-TR)などが参考にされます。ポイントとなるのは、
①不注意や多動性・衝動性の症状が一定数以上みられること
②その症状が子どもの頃(おおむね12歳以前)から続いていること
③家庭・職場など複数の場面で生活に支障が生じていること、などです。
ADHDは大人になってから急に発症する疾患ではないため、幼少期の様子がわかる資料(通知表・連絡帳・母子健康手帳など)をお持ちいただくと、診断の参考になります。可能であれば、ご家族など幼少期をよく知る方からお話を伺うこともあります。
問診に加えて、必要に応じて心理検査(いわゆる診断テスト)を補助的に用います。代表的なものに、ADHDのスクリーニングに用いられるASRS(成人期ADHD自己記入式症状チェックリスト)、症状の程度を評価するCAARS、知的機能や得意・不得意の傾向を把握するWAIS(成人用知能検査)などがあります。これらの検査はあくまで診断を補助するものであり、検査結果のみでADHDと確定されるわけではありません。
また、うつ病や双極症、不安症、ASD(自閉スペクトラム症)などは、ADHDと症状が似ていたり、併存したりすることが少なくありません。ほかの疾患との鑑別や併存症の評価も含めて丁寧に診断を行うことが、その方に合った治療につながります。また、診断を受けることは、ご自身の特性を客観的に理解し、職場での調整や治療の方針を立てる上での出発点にもなります。
ADHDの治療は、特性そのものをなくすことではなく、特性と上手に付き合いながら生活上の困りごとを減らしていくことを目標に行われます。治療の柱となるのは「環境調整・生活の工夫」と「薬物療法」で、症状の程度やライフスタイルに応じて組み合わせていきます。
■ 環境調整・生活の工夫(心理社会的支援)
スケジュールやタスクをアプリ・メモで見える化する、作業を小さく分割して取り組む、気が散りにくい作業環境を整える、持ち物の置き場所を固定するなど、特性に合わせた工夫を積み重ねていきます。診察を通じてご自身の特性への理解を深め、苦手な場面への対処法を身につけていくことは、治療の重要な土台になります。また、睡眠不足は不注意の症状を悪化させやすいため、生活リズムを整えることも大切です。二次的に生じたうつ状態や不眠などがある場合には、その治療も並行して行います。
■ 薬物療法
成人のADHDに対して国内で承認されている薬には、メチルフェニデート徐放剤(コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)があります。不注意や衝動性などの症状の軽減が期待できる一方、食欲低下・吐き気・不眠・頭痛・眠気などの副作用が生じることがあり、効果や副作用の現れ方には個人差があります。薬を使うかどうか、どの薬を選ぶかは、診察の上で医師と相談しながら決めていきます。なお、コンサータの処方には、流通管理システムに登録された医師による診療が必要です。
Q.ADHDは大人になってから発症しますか?
A.ADHDは生まれつきの特性による発達障害であり、大人になって突然発症するものではありません。ただし、子どもの頃は目立たなかった特性が、就職や昇進、結婚・育児など環境の変化をきっかけに表面化し、大人になって初めて気づかれるケースは多くあります。
Q.ADHDの診断テストだけを受けることはできますか?
A.ADHDの診断は、心理検査の結果だけで行えるものではなく、医師の診察・問診とあわせた総合的な評価が必要です。検査をご希望の場合も、まずは診察の中で症状や経過をお伺いした上で、必要な検査をご案内します。
Q.薬を飲み始めたら、ずっと続けなければいけませんか?
A.薬物療法を続けるかどうかは、症状の経過や生活の状況をみながら、医師と相談の上で見直していきます。環境調整や生活の工夫が機能するようになった段階で、減量や中止を検討することもあります。自己判断での中断は症状のぶり返しにつながることがあるため、必ず医師にご相談ください。
Q.ADHDかもしれない場合、何科を受診すればよいですか?
A.精神科・心療内科が相談先となります。渋谷こころのクリニックでも成人のADHDの診断・治療に対応しております。「仕事のミスや忘れ物が続いてつらい」「自分がADHDかどうか知りたい」という段階のご相談でも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。