不安症とは不安感やパニック発作を生じる疾患の総称です。国際的に用いられる分類や診断のマニュアル(DSM-Ⅴ)ではパニック症や広場恐怖、社交不安症、全般性不安症などに分類されています。
「メンタルが弱いから不安やパニックの発作が出る」「要は気の持ちよう」と考えてしまう人も多いですが、これら不安症の症状は単なる気持ちの問題ではなく、脳の偏桃体という部分の誤作動(過剰な反応)によるものであることが明らかになっています。
不安症の治療は薬物療法と行動療法を組み合わせて行うのが標準的です。SSRIという種類の抗うつ薬や抗不安薬を用いた薬物療法で扁桃体の誤作動を抑えていきます。また、暴露療法と呼ばれる行動療法も有効であるといわれています。
突然強い恐怖感を感じ、呼吸困難や動悸、めまい、冷や汗などの症状が出現する現象のことをパニック発作と呼びます。通常数分から30分以内に症状は消失しますが、発作を複数回繰り返す人も多く、「また発作が起きてしまうのではないか」という予期不安がみられることもあります。このパニック発作を繰り返す状態をパニック症と呼びます。
パニック発作が起きている時はかなりつらいですが、「死ぬことはない」「気が狂うことはない」「治療すれば治る可能性が高い」ということを知っておいてください。
パニック症の治療は薬物療法に認知行動療法(精神療法)を組み合わせて行われることがあります。薬物療法ではSSRIという種類の抗うつ薬や抗不安薬を用いて症状の緩和を目指します。パニック発作を誘発する特定の状況や思考パターンがある場合には、認知行動療法も有効であるとされています。
広場恐怖は「逃げ出すことが難しい」場所や状況に対して強い不安を抱く疾患です。満員電車や新幹線、飛行機などのほか、映画館やコンサート会場などでも症状がみられることがあります。
症状が出てしまうことへの恐怖から外出を避ける人も多く、日常生活での行動範囲が徐々に狭くなってしまうこともあります。
抗うつ薬や抗不安薬を用いた薬物療法を行いながら、段階的な行動療法と心理的なサポートを組み合わせることが症状改善に有効であるとされています。
社会的場面(発表やプレゼンテーション、会食、講演など)で極度の不安や緊張が生じ、言葉がうまく出なくなったり、動悸や発汗などの症状が出現する疾患です。
他の人から一定の注目を受ける状況で期待に添えないのではないかと感じ、恥ずかしい思いをしたり、軽蔑されたりするのではないかと強く感じてしまうことがそのような症状につながることが多いようです。
不安が発汗や赤面、震え、吐き気などとして周囲に伝わってしまい、自分の状況が他の人に知られてしまうのではないかと懸念する人もいます。
根拠のない漠然とした不安感や心配が半年以上続き、日常生活に支障をきたす状態を「全般性不安障害」といいます。仕事の失敗や健康への過度な心配、家族の安全など、実際には起きていない事柄に対して強い不安を抱き続けることもあります。
原因としては脳内の神経伝達物質のはたらきの乱れの他に、性格傾向や幼少期の環境なども挙げられます。必要に応じた薬物治療や認知行動療法が症状の緩和に役立ちます。「気のせい」や「性格の問題」と捉えずに、治療可能な病気として向き合う姿勢を持つことが回復への第一歩となります。