大人になってから発達障害に気づく方が増えています
「昔から人付き合いがどこか苦手」「仕事の段取りやマルチタスクで、いつも人よりつまずいてしまう」「頑張っているのに、同じ失敗を繰り返してしまう」。こうした生きづらさの背景に発達障害があるのではないかと、大人になってから気づく方が増えています。
発達障害は生まれつきの脳の特性によるもので、大人になってから突然発症するものではありません。学生時代までは周囲のサポートや環境に助けられて目立たなかった特性が、就職や昇進、結婚など、求められる役割が複雑になったタイミングで表面化し、初めて「もしかして」と思い至るケースが多いのです。
また、うつ病や適応障害などの治療を進めるなかで、その背景に発達障害の特性が見つかることも珍しくありません(特性による生きづらさから心の不調が生じることは「二次障害」とも呼ばれます)。

発達障害とは?大人の診療で多い2つのタイプ
発達障害にはいくつかのタイプがあり、大人の診療で話題になることが多いのは次の2つです。それぞれの特性は重なり合うことが多く、複数を併せ持つ方も少なくありません。
【ADHD(注意欠如多動症)】
不注意(忘れ物・ケアレスミス・集中の続きにくさ)や、多動性・衝動性(落ち着きのなさ・考える前に動いてしまうこと)を特徴とします。大人では多動性が目立たなくなり、不注意による仕事上の困りごとが中心になる傾向があります。詳しくは疾患ページ「注意欠如多動症(ADHD)」をご覧ください。
【ASD(自閉スペクトラム症)】
対人コミュニケーションの独特さ(暗黙の了解や曖昧な指示が苦手)、強いこだわり、感覚の過敏さなどを特徴とします。以前「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」と呼ばれていたものは、現在はASDというひとつの診断名にまとめられています。
なお、「自分はどのタイプなのか」を受診前に見極めておく必要はありません。実際の診断では、タイプの枠にあてはめることよりも、どんな場面で・どんな困りごとがあるかを丁寧に確認していくことから始めます。
大人の発達障害の特徴|仕事・人間関係・生活でよくある困りごと
大人の発達障害の特性は、仕事・人間関係・生活のさまざまな場面で「困りごと」として現れます。よくあるものを挙げてみます。
- 締め切りやスケジュールの管理が苦手で、いつもぎりぎりになる
- ケアレスミスや忘れ物が、注意していても減らない
- 複数の仕事を同時に進めようとすると、頭が混乱してしまう
- 口頭だけの指示や、「いい感じにやっておいて」といった曖昧な依頼が苦手
- 雑談や飲み会など、目的のはっきりしない会話がひどく疲れる
- 冗談や皮肉を真に受けてしまい、あとで気まずくなる
- 悪気なく言ったひとことで、相手を怒らせてしまうことがある
- 片づけが苦手で、部屋やデスクが散らかったままになる
- 音・光・においなどの刺激に、人一倍疲れる
- お金の管理や書類の手続きを、つい後回しにしてしまう
大切なのは、これらが「怠け」や「性格の問題」ではなく、脳の特性による得意・不得意の偏りだという点です。ご本人は人一倍努力しているのに結果につながらず、自分を責め続けているケースがとても多いのです。当てはまるものが多く、仕事や生活への支障が続いているようであれば、一度ご相談いただくことをおすすめします。
診断がつかなくても、困りごとは相談できます
知っておいていただきたいのは、診断がつくかどうかにかかわらず、医療機関に相談してよいということです。診察では、診断の可能性を検討するだけでなく、特性の傾向を整理し、環境の整え方や仕事の工夫を一緒に考えていくことができます。困りごとの背景にうつ状態や不安が重なっている場合には、まずその治療から始めることもあります。
セルフチェック・診断テストでわかること、わからないこと
インターネット上には、発達障害のセルフチェックや診断テスト(ASDの傾向をみるAQ、ADHDの傾向をみるASRSなど)が数多くあります。ご自身の傾向を知り、受診を考えるきっかけにする上では役立ちますが、セルフチェックの結果は「診断」ではありません。
発達障害と似た困りごとは、うつ病や不安障害、強いストレスや睡眠不足でも起こります。「生まれつきの特性によるものなのか、いまの心身の不調によるものなのか」の見極めは、医師の診察でなければできません。チェックの点数に一喜一憂するよりも、「気になる状態が長く続いている」「生活や仕事に支障が出ている」こと自体を、相談の目安にしてください。
なお、セルフチェックの結果を受診の際にお持ちいただくのは有用です。「どの項目に当てはまったか」が、診察で確認していく上での手がかりになります。
大人の発達障害の診断|どこで・どのように行われるのか
大人の発達障害の診断は、精神科・心療内科で受けられます。大人の発達障害のご相談は、多くの精神科・心療内科で日常的に行われている診療のひとつであり、特別な専門機関を探さなければ受けられないものではありません。受診先は、通いやすい場所や予約の取りやすさで選んでいただいて構いません。なお、18歳未満の方は、児童精神科や小児科の発達外来が窓口になることが一般的です。
診断は、おおまかに次の流れで進みます。
- 問診:現在の困りごとと、子どもの頃からの経過を詳しく伺います。発達障害の診断では幼少期の様子が重要なため、母子手帳や通知表があれば参考になります。ただし、大人になってからでは手元に残っていない方のほうが多いくらいですので、なくても構いません。覚えている範囲のエピソードで十分ですし、必要に応じて、ご家族から子どもの頃のお話を伺うこともあります。
- 検査:必要に応じて、知能検査や質問紙などを補助的に行います。
- 診断と方針の説明:結果を総合して診断をお伝えし、今後の方針(環境調整・治療・支援制度の利用など)を一緒に考えていきます。
幼少期の情報を集めるのに時間がかかることもあり、数回の診察をかけて丁寧に判断していくことも珍しくありません。ADHDの可能性を中心に考えている方は、診断の流れや費用を詳しくまとめた記事「ADHDの診断」もあわせてご覧ください。当院(渋谷こころのクリニック)でも、大人の発達障害のご相談・診断に対応しています。
発達検査・心理検査にはどんな種類がある?
発達障害の診断は医師による問診が中心で、検査はそれを補助する位置づけです。「発達検査」とひとまとめに呼ばれることが多いのですが、大人でよく用いられるものには、次のような種類があります。
- 知能検査(WAISなど):言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度といった力の得意・不得意の偏り(ばらつき)を調べ、困りごとの背景を理解する材料にします
- 質問紙・チェックリスト(AQ、ASRS、CAARSなど):ASDやADHDの特性の程度を数値化し、症状の全体像をつかみます
- そのほかの心理検査:うつや不安など、併存しやすい状態の評価に用います
いずれの検査も、結果の数値だけで診断が決まるわけではなく、問診とあわせた総合判断の材料です。また、実施している検査の種類は医療機関によって異なります。特定の検査を希望される場合は、診察の際にご相談ください。
診断を受ける意味と、迷った時の考え方
「診断を受けて、何になるのだろう」と迷う方も多いと思います。診断を受けること(あるいは、診断に至らなくても特性を整理すること)には、次のような意味があります。
- 長年の困りごとの理由がわかり、自分を責める気持ちが軽くなる
- 特性に合わせた働き方や環境の整え方を、具体的に考えられるようになる
- 必要に応じて、薬物療法などの治療の選択肢を検討できる場合がある
- 精神障害者保健福祉手帳や自立支援医療、障害者雇用といった公的な支援制度の利用を検討できる(制度ごとに要件があり、診断が前提となるものがあります)
一方で、診断を受けるかどうかは、ご本人が決めてよいことです。「まだそこまでは考えていない」「まずは自分の傾向を知りたいだけ」という段階のご相談ももちろん可能です。迷っている気持ちも含めて、診察のなかで一緒に整理していきましょう。
大人の発達障害に関するよくある質問
Q.発達障害は治りますか?
A.発達障害は生まれつきの特性であり、「治す」という考え方はしません。ただし、特性そのものは変わらなくても、環境調整や仕事の工夫、必要に応じた治療によって、困りごとを減らしていくことは十分に可能です。同じ特性を持ちながら、環境が合うことで力を発揮している方もたくさんいらっしゃいます。
Q.家族が発達障害かもしれません。どうすればよいですか?
A.診断や治療には、ご本人の受診が必要です。受診を無理にすすめると、かえって心を閉ざしてしまうこともあるため、ご本人のペースを尊重しながら見守ることも大切です。ご家族として対応に迷う場合は、発達障害者支援センターなどの公的な相談窓口を利用する方法もあります。
Q.診断されたら、会社に伝えなければいけませんか?
A.伝える義務はありません。伝えるかどうか、伝える場合は誰に・どこまで話すかは、ご自身で決められます。職場に配慮をお願いしたい場合の伝え方についても、診察でご相談いただけます。
Q.今の仕事を続けられるか不安です。
A.診断は「今の仕事を辞めるべきかどうか」を決めるものではありません。特性と仕事内容の相性を整理した上で、働き方の工夫や環境調整から考えていくのが基本です。焦って結論を出す必要はありません。
まとめ:特性を知ることは、責めることではなく整えることです
大人の発達障害は、「怠け」や「性格の問題」と誤解されがちな困りごとの背景に、生まれつきの特性が隠れているものです。診断がつく場合も、つかない場合も、特性を理解し、環境を整えていくことで、生きづらさを減らしていくことはできます。
「自分は発達障害かもしれない」と感じながら、どこに相談すればよいか分からずにいた方も、どうぞお気軽にご相談ください。